保護猫活動が目指す真の未来
「猫の殺処分ゼロ」――これは、長年保護活動に携わる人々や、多くの愛猫家が切に願い、実現のために尽力してきた重要な目標です。自治体によっては既に達成、あるいは限りなくゼロに近い状態を実現している地域も増えてきました。しかし、この殺処分ゼロの達成は、保護猫活動にとって真の「ゴール」と言えるのでしょうか?
ゼロの数字の裏側
確かに、かつて年間数十万頭もの犬や猫が殺処分されていた時代と比較すれば、「ゼロ」という数字が持つ意味は計り知れません。不要とされた命が、人間の都合で一方的に奪われることがなくなる。これは動物福祉の観点から見ても、社会の倫理的な成熟度を示す上でも、大変に大きな進歩です。殺処分ゼロの達成は、関係者の弛まぬ努力の結晶であり、心から祝福されるべきことです。
しかし、殺処分がなくなったからといって、すべての猫が幸せになったわけではありません。殺処分ゼロという数字の裏側には、新たな課題や、これまで見過ごされてきた問題が横たわっています。
生かされているいう事実
まず、殺処分がゼロになった自治体では、行き場を失った猫たちは行政の施設や民間の保護団体に収容されることになります。これは命が失われないという意味では良いことですが、収容スペースには限りがあり、施設は常に飽和状態にあります。多くの猫たちが、ケージの中で長い時間を過ごさざるを得ない現状があります。これは「生かされている」状態であっても、猫にとって真に幸福な状態とは言えないでしょう。
また、殺処分ゼロを達成したとしても、猫が増えすぎて飼育崩壊を起こしている現場、心ない人間に虐待される猫、厳しい環境で飢えや病気に苦しむ野良猫の問題がなくなるわけではありません。これらの猫たちは、公的な保護の対象となるまでにも困難を伴う場合が多く、その存在は「殺処分ゼロ」の統計には現れてきません。
さらに、猫が「物」のように扱われ、安易に購入され、飼育放棄されるという根本的な問題も解決していません。「殺処分ゼロ」は、あくまで結果としての数字であり、その原因となる無責任な飼い主や、動物を軽視する風潮そのものを取り除くものではないからです。
殺処分ゼロの先
では、殺処分ゼロの先に、保護猫活動が目指すべき真のゴールとは何でしょうか。それは、単に命を「生かす」だけでなく、すべての猫が安心して、健康で、愛情を受けながら生涯を全うできる社会を実現することではないでしょうか。
そのためには、以下の点に継続的に取り組む必要があります。
- 適正飼育の啓発・教育の徹底: 猫を飼うことの責任や、必要な知識、終生飼養の重要性を広く社会に浸透させること。
- 無責任な繁殖・販売の規制強化: 飼育崩壊や安易な放棄の原因となるような繁殖や販売を抑制すること。
- 多頭飼育問題への対策と支援: 飼育頭数が増えすぎて適正な飼育が困難になっている飼い主への介入と支援。
- 地域猫活動の推進と理解促進: 地域住民の合意のもと、野良猫の不妊去勢手術(TNR)を進め、QOLを向上させる活動への支援。
- 保護された猫の質の高いケアとQOL向上: 保護施設において、猫たちが心身ともに健康に過ごせる環境を提供し、ストレスを軽減すること。
- 譲渡後のアフターフォロー体制: 譲渡した猫が新しい家庭で幸せに暮らせるよう、里親への継続的なサポートを行うこと。
殺処分ゼロは、保護猫活動における非常に重要なマイルストーンですが、それは決して終着点ではありません。それは、すべての猫が安心して、愛されながら暮らせる真の意味での「猫と共生する社会」を実現するための、新たなスタートラインなのです。行政、保護団体、そして私たち一人ひとりが、この大きな目標を見据え、それぞれの立場でできることに取り組み続けること。それが、保護猫活動が目指すべき真の未来ではないでしょうか。

私たちは名古屋市の保護猫組織「ねころび」です。日本中の犬猫殺処分ゼロを目指し、主に不幸な野良猫を減らすための避妊去勢手術、恵まれない立場の動物の保護を行うために活動しています。